さよならドンコ

先日、5年ほど飼育していたドンコ様が逝去しました。

それまでは元気でしたが、死ぬ前日に餌を吐き戻して、ドンコの様子から嫌な予感はしましたが、翌日には亡くなりました。

 

生き物を沢山飼育していれば、生き死にはそれなりによくある事ですが、長く飼っている個体はついその事を忘れてしまいます。

次に作る予定の水槽台でも、当然のようにドンコ水槽が計画の一部に入っていました。当たり前のように来年も生きているなんてことはない、と言う事を改めて実感します。

 

出会った頃の私はドンコの敵同然でしたが、後にねじ伏せられてからは、お世話係になりました。墓標の代わりと言ってはなんですが、私がドンコに平伏すまでの思いでをここに綴ります。

運命

ドンコとの出会いはガサガサです。出会った時は特別な魚でもなければ、飼育する予定もありませんでした。

我が家の肉食動物の手先として採取活動していた私のタモ網に入った瞬間にドンコの運命は決まっていました。

 

それは食糧として短い一生を終えること。

 

エサ用に採取してきた魚は1匹たりとも、このレールから逃れることは出来ません。小さな命が抵抗できる事など無いに等しい、考えるまでも無くそれが事実のはずでした。

 

捕食者との生活

捕らえられたドンコは、すぐさま食糧としての生活を送ることになります。入居した水槽は王者としてタガメが君臨する世界でした。

 

タガメはカマのような大きな前足で獲物を掴まえ口針を突き刺し、肉を溶かして啜る水棲昆虫。時には自分よりも大きなカエルやヘビまで捕食する強者です。

そんな恐ろしいタガメが支配する水槽は25cmのミニサイズ。10Lにも満たない小さな水槽なので、ドンコの隣には常にタガメがいます。

 

身近にタガメが居る生活。

人間であれば素敵な田舎生活を想像しますが、魚からすれば絶体絶命の死地に違いありません。

 

悪魔の罠

水槽が狭い事もあってカワムツなど入れた生体はどんどん糧となって消えてゆきます。ドンコも時間の問題かと思われましたが、他の魚とは違ってなかなか捕まりませんでした。

そこで食料としての本分を全うして欲しい私は卑劣な作戦を立てる事にします。それは好物の赤虫でタガメの近くにおびき寄せて、あわよくば喰わせてしまう作戦。

腹ペコのドンコが抗えない食欲につけこむ。我ながら恐ろしい事を考えました。

 

しかし、この作戦は何度も実行するも、ドンコは類い稀な生存スキルを発揮して見事に生き残り続けることに成功ます。

 

崩壊

食糧としての生活から1年ほど経ったある日、突如としてその生活が終わりを告げます。

旅行をする前にタガメの食事として、数日前からカワムツをエサに2匹入れてましたが、出発の日になっても、そのまま残っていました。ここで私は『しばらく食べないのかな?』と、軽く考えカワムツを残したまま旅行に出かけてしまいました。

 

完全な判断ミス。

帰って来たときには、捕食された後のドロドロのカワムツとタガメが水に浮かんでいました。ドロドロになったカワムツが死の連鎖を引き起こし、水槽は毒の池と化していたのです。

さもありなん。

しかし、その全てが死んだと思われる水槽の中で、1匹だけ生き残った魚がいました。

 

それがドンコでした。

 

それでもエサ

劣悪な環境の中を生き抜いたドンコ。

もしドンコが自分の状況をわかっていたなら、『やった!生き残った!終わったぞ!!』と、思ったかもしれませんが、もちろん終わりません。

残酷な事ですが、エサの身分に変わりありませんでした。

 

なぜなら我が家には育ち盛りのスッポンもいたので、エサはいくらあっても構わないのです。ドンコはすぐにでもスッポンのエサに出来ましたが、季節は夏。

エサ水槽には生き物が溢れており、もっと食べ頃のエサがいたので、とりあえず一旦エサ用水槽に戻すことにしました。ドンコは採った時から満足に食事をとっていないのでほとんど成長していません。

エサ水槽にはエビや小魚も沢山いましたが、ドンコが食べるにはどれも少し大きいようなものばかり。私はエサがドンコに食べられて減る心配をあまりしていませんでした。

静かなる成長

ドンコをエサ水槽に入れてしばらくして、水槽の隅の方に明らかにサイズがデカくなったドンコがいることに気付きました。

あまりの変化に一瞬、誰かわかりませんでしたが、間違いなく、あの小さかったドンコです。

 

自分より大きな魚もウジャウジャいて、決してストレスの少ない水槽とは言えない中で、必死になって大きな獲物を捕らえて成長したのでしょう。

ずーっと、ひもじい思いをしてきたドンコの事を思えば感動的ですらあります。

普通の人であればこの時点で飼育用の魚に昇格するかもしれませんが、悪魔は思いました。

 
 
 

 

 
 
 

これで食べ頃だな、と。

 

最後の戦い

しかし、悪魔は怠惰でした。

ここからは早々大きくもならないだろうという気持ちもあったのでしょう。思い立ってすぐ餌にすれば良かったものを、ずるずると数日が経過します。

そして、その数日の間でドンコはさらに二回りは大きくなっていました。

もはや我が家に居る生体では、誰も一口では食べられない大きさです。サイズが大きいとバラバラにされて、水が大いに汚れます。なので、エサにするタイミングを見計ろうと怯んでしまいました。

ここで餌にしなかったのが最後の分岐点でした。

 

ドンコの成長は止まることなく、日を追うごとに大きくなり、ついにエサ水槽を完全に制圧。もはやエサ水槽の魚は全てドンコの腹の中に納まります。

そして、あれよあれよという間に、飼育しているスッポンより大きくなる爆発的な成長を遂げました。

 

途中までは心のどこかで『まぁなんとかなるっしょ』と思っていましたが、いつの間にかどうすることも出来ない存在になっていました。

ドンコが大きくなるのが先か私がドンコを餌にするのが先か?

私もドンコも知らない間に、そんな勝負になっており、敗北を喫したのが私だった事に気付きました。

圧倒的優位なはずの人間様である私が幼魚に完敗した事実には多少打ちひしがれたものの、心に訪れたのは様々な苦難を乗り越えて、自ら運命を切り開いたドンコへの尊敬の念でした。

新たなる王の誕生

こうして、誰も手出し出来ない存在となったドンコは頂点として存在すべく、水槽を1つ勝ち取ることに成功しました。

食糧として、我が家にやってきたドンコは一国一城の主となったのです。

それからというもの立場逆転。

私はドンコ様を敬い、食糧を取りに川に出かけたり、お世話係としてお仕えする日々が始まったのでした。めでたしめでたし。

最後に

専用水槽を1つ手に入れたとはいえ、ドンコは最後までこの小さなSサイズ水槽で暮らしていました。

食糧扱いされて、奇跡の逆転を果たしても、最後までこの狭い世界の住人でしかなかったドンコ。

そう考えると可哀相な人生(魚生?)だったとも思いますが、タフに生き抜いた一生を私ごときの価値観で憐れむのはドンコ様も失礼しちゃうでしょうからやめておきましょう。

さよならドンコ。

私の飼育史に残る、水槽を自らの力で勝ち得た唯一の存在 R.I.P

 

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